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黄金の夜明け プロローグ

 靴底の革と石段がぶつかり、コツコツと音を立てる。
 
 音を響かせながら、揺らめく光を連れて細い足が階段を降ってくる。全身が現れて来ると、細い足を持つに相応しい、吹けば飛ぶ様な細く小さな体だった。うなじで切り揃えられたコルク色の髪を躍らせながら下った階段が終わりを告げ、広過ぎない石室が現れた。
 少しの足場を残して湛えられた水に、石の棺が一つ沈んでいる。
 蝋燭が照らすその物悲しい風景を、何てことは無い様に、眼鏡の奥のフォレストグリーンは凪いでいる。
「来たよ、三重に偉大なヘルメス神(ヘルメス・トリスメギストス)」
 何の躊躇いも無く、足首辺りまでを水に浸して棺に乗ると、その端まで歩く。その少し先に沈む、美しいエメラルド片を思い浮かべると、ちょうどその真上ほどに半透明の男が現れる。その、どう考えても超常的な状況にも、緑の凪は波立たない。
「どうしたの? 三重に偉大なヘルメス神(ヘルメス・トリスメギストス)が僕に用事だなんて、初めてじゃない?」
「・・・・・・サン・ジェルマンの手伝いに行ってくれないか?」
 刹那の沈黙の後に吐き出された、具体性の無い頼みに違和感を感じる。
「伯爵の? でも、当の伯爵が見当たらないよ。てか、何を手伝うのさ?」
「詳しくはサン・ジェルマンに訊き給え。彼の元へは、今から送ろう」
「送る?」
「彼は、此処とは違う世界にいる」
「へ!?」
 突飛な話に頭が付いて行ききれていないというのに、状況は進んで行く。水中からエメラルドグリーンの光が溢れ、石室を満たす。その光が収まった後、石室は再び暗く静かな墓に戻っていた。

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