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春疾風

春疾風
 バンっと大きな音が、縁側の辺りから聞こえた。
 音に驚いて、咄嗟に瞑った目を開き、自室で本を読んでいた鈴呉は急いで縁側に出る。
「な、何だっ!?」
 縁側は、先程の音など無かったかの様に、のどかな様子で、鈴呉の頭に大きな疑問符が浮かぶ。しかし、あの音的に何も無いはずはないと、付近をキョロキョロと見回すと、柱の下で緑色の小鳥が伸びていた。この子が柱にぶつかったのだろうか。
「鶯? いや、鶯は色が茶色のはず」
 鈴呉がマジマジと見ると、その小鳥は鶯色の羽を持っていたが、目の周りだけは白かった。
「メジロ……かな?」
 このままにはしておけないので、伸びているメジロをそっと拾い上げた。
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 拾われたメジロは、右翼の骨が折れてはいたが、すごい音でぶつかったわりには元気で、餌もすぐに煉餌から虫などに戻すことが出来た。今では、右翼こそ固定されているが、鳥籠の中を跳ね回ったり、鳴いてみせたりと、元気が有り余っている様子だった。
「す〜ずくれ!」
 自室にて、メジロを眺めていると、主君である甲斐姫が現われた。突然のことに、鈴呉の思考が停止する。
「ひ……」
「ん?」
 固まったままの顔で、喘ぐ様に声を絞り出す鈴呉に、甲斐姫は笑顔で首を傾げる。
「姫(ひい)様っ!?」
 叫んだのを皮切りに、今度はわたわたと動揺を表す様に手を激しく動かした。
「大丈夫?」
 苦笑しながら、甲斐姫は鈴呉の顔を覗き込んだ。
「こ、この様な所にお越しにならなくても、お呼びくだされば、すぐに参りましたのに!!
 ハっ、それとも私(わたくし)、姫様のお呼びに気付きませんでしたかっ!?」
 その動揺の仕方に、甲斐姫は面白いと思いながら、言う。
「あたしが急に鈴呉の顔を見たくなっただけ。あたしのわがままで毎回呼び出されたら、鈴呉が大変でしょ。それに、たまには鈴呉の部屋にも来たいしね」
 甲斐姫の言葉に、鈴呉は顔を真っ赤に染める。
「そ、その様な……、身に余る光栄です」
 普段言葉を明瞭に話す鈴呉には珍しく、俯きながらボソボソと言う。
「ところで、あの子どうしたの?」
 甲斐姫が鳥籠のメジロを指差しながら言う。
「あぁ、あの子はこの間柱にぶつかって伸びてたので、手当てしたのです」
 伸びていたとは思えないほど元気の良いメジロを覗き込み、甲斐姫が何気無く言った。
「ふぅん。この子、治ったら森に帰すの?」「……え?」
 その青天の霹靂は、違わず鈴呉を打ち抜き、鈴呉は甲斐姫の気遣わしげな声にも反応出来なかった。
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「傷が治ったら、か……」
 縁側で、鳥籠を横に置き、メジロと共に日向ぼっこをしながら、甲斐姫の言葉に思いを馳せる。思っても見なかった甲斐姫の言葉は鈴呉の胸を抉った。
「そうだな、傷が治ったら、森に帰すべきなのだ……」
 近くまで来ているその時が、不謹慎ながら、永遠に来なければ良いと思ってしまった。.
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 どんなに来るなと思っても、その時は結局来てしまった。
 すっかり傷が良くなったメジロは、籠の中を所狭しと飛び回る。その籠に鈴呉が手を入れると、大人しくその指に止まる。
「選ばせてやる」
 籠から出して、指に止まったメジロに言う。
「お前が森に帰りたいなら、このまま森へ帰れば良い。でも私と共にいたいなら、何時飛ばしても、私の元に戻って来い」
 真剣に語りかける鈴呉に、メジロも心持ち真剣な様子だ。
 部屋の中で飛ぶ練習をさせたことはあるが、外で放すのは初めてだ。きっと帰りたければ、そのまま翔んで行くだろう。
「お前が選ぶのだ」
 通じているかは解らない。だが、やけに真剣な様子のメジロに、こちらの言っていることが解るのではないかと思える。
「それっ!」
 鈴呉が声をかけて指を上げると、メジロが萌葱の羽根を広げ、飛び立つ。しばらく近くを飛び回ると、塀を越え森の方へと翔んで行く。その様子に鈴呉は俯き、ため息を吐く。
 そのまま立ちすくんでいると、高い囀りと羽音と共に、メジロが戻って来て鈴呉の肩に止まる。
 しばらく固まった鈴呉に、メジロを頬擦りをする。その感触で我に返った鈴呉は、メジロに問い掛ける。
「私と、これからも一緒にいてくれるのか?」
 メジロは応える様に一声鳴く。
「有り難うっ!」
 メジロを抱き締める様に手を添える。
「そうだ、名前付けてあげぬと……」
 森に帰す時を思い、付けられなかった名前。でも、もう遠慮する必要は無い。
「お前、疾風の様に速く飛ぶよな。だから、春の疾風で、『春疾風』っ!」
 喜びを表す様に羽ばたき、一声鳴く。それに笑みを零すと、春疾風に向けて言う。
「これからよろしくな、春疾風」
 庭にさわりと、東風が吹いた。
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――――――
戦パラで、思わず肩乗り鶯を買ってしまったので、そんな出会い編です
鶯やて言ってますが、鶯色なのはメジロなので、色重視でメジロにしちゃいました(爆)
ちなみにメジロ衝突事故は、高校時代実際見たことあります
その時は硝子でしたけどね
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アバ子の口調が、まだ掴みきれてません(笑)

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